八ヶ岳ツアー CRAZY番外 撤退戦線異常なし
とんだ災難に見舞われてしまった。
昼間滑って転んで右足のスネを痛打流血した。
しかし歩けないほどではなかったのでひとまず安心していたし、実際それは災難ではなかった。
そいつは夜にやってきた。しかも予期せぬところを目がけて。
テン場にて夕食とともに、ビール一本と焼酎を一口いただいて、
心地好い疲れのまま寝袋に潜り込むとすぐさま眠りに落ちた。
ふと目を覚ますと、どうも左手に違和感がある。
なんじゃらほい、と左手を少し動かすととんでもない激痛が走るじゃないか!
恐る恐る動かしてみるが、そろりそろりと動かしてる間ずっと痛い。
握りこぶしが作れない。
むう。これは、かなりまずい感じだ。
あれこれ悩んでもしょうがない。今は痛みを堪えてもう一度寝よう。
と思っているのに今度は寒さが無遠慮に訪ねてきて寝るに寝られない。
背に腹は変えられん。雨具を着込むことにしたのだが、これはこれで大変だった。
まず寝袋から出るのに激痛。
ザックから雨具を出すのに激痛。
テントから出るのに激痛。
雨具のチャックを上げるのに激痛。
またテントに入るのに激痛。
寝袋に潜り込むのに激痛。
合計六激痛。大人なので泣きませんでしたが。
あとはひたすら眠ることに集中し、寝たのかどうだかあやふやなまま朝を迎えた。
睡眠をとったことで劇的に改善していた、などということもなく、状況はさほど変わらない。悪いままだ。
地図を取り出し今日これからのルートを確認する。昨日通ったルートも思い出す。
握りこぶしはやはり作れない。握力もほぼない。手首の動きも不確かだ。
とてもじゃあないが右手一本で岩場突破はできない。
となれば選択肢は一つだ。
ごそごそと起き出した隊長に、ここで引き返す事を伝えた。
無理して進退極まるよりは、戻った方が確実であると説明すると、あっさり了承された。
3人で荷物を分担して持っていたのだが、2人の余分なものを私が持ち帰り、物を減らすことで何とか解決できそうだ。
明るくなったテン場で左手を見ると手の甲が腫れている。右手と比べると一目瞭然だった。
ここで退くことは非常に残念だったが、北八ツを堪能できたから良しとしようじゃないか、と無理やり納得させた。
しかしッ!このまま帰ったんじゃあクレイジーの名がすたる。
撤退戦の幕を上げよう。
つづく
2014 年 10 月 27 日